CROSSTALK

国境や人種を超えて、
人々と感動をシェアできる。
世界に挑む意義がここにある。

ポスター
「殺しの烙印」
海外版ポスタービジュアル

2022年に、デジタル修復した日活の作品、『殺しの烙印』(鈴木清順監督)が、第79回ヴェネツィア国際映画祭クラシック部門 最優秀復元映画賞を受賞した。三大映画祭への日活クラシック作品の出品が始まったのは2012年。この時ベルリン映画祭のフォーラム部門に『幕末太陽傳』が選出され、以降、2021年にカンヌのクラシック部門、ヴェネツィアのクラシック部門に初選出。そして日活創立110周年となる年に、最高賞の栄誉に輝いた。

PROFILE

プロフィール

映像事業部門
版権営業部
国際事業チーム

加藤

2014年入社

特撮好きであることから映画会社を志し、日活に入社。入社後、現部署に配属され、海外セールスを担当。2021年よりアニメ事業部を兼任し、アニメ作品のプロデュースも行う。

映像事業部門
版権営業部
国際事業チーム

小森

2020年入社

小さい頃から映画好きで、大学時代は授業が終わると映画館に行く毎日を過ごす。日活への入社の決め手は、日本一古い映画会社なのに、チャレンジャーであるところに“映画の魂”を感じたこと。入社後、現部署に配属され現在に至る。

映像事業部門
版権営業部
国際事業チーム

山本

2021年入社

好きなことなら自分の100%の力を出せる。そう考え、エンタメ系の会社を志望。映画会社、出版社等を受ける中、「どの部署に配属されても何らかの形で映画のことに関われる」と思った日活への入社を決めた。入社後、現部署に配属され現在に至る。

三大映画祭への出品。
それは世界中に日活作品を広める大きなチャンス。

Q.国際事業チームの業務内容を教えてください。

加藤

ライセンスを全般的に取り扱っている版権営業部の中でも、当チームは海外に向けたライセンスの売買を行っています。海外作品を買うこともあれば、日活が製作・出資した映画作品やアニメ作品を海外に売ることも。セラーとバイヤーがいて、私たち3人はセールス担当です。

Q.その中の業務の一つが、今回のヴェネツィア国際映画祭への出品なのですね。ヴェネツィア国際映画祭クラシック部門にはどんなプロセスで出品することになったのですか?

加藤

三大映画祭への出品は日活作品の価値を世界中に知らしめるチャンスです。そんな中、それまで一番距離が遠かったのがヴェネツィアでした。長い間、作品が選出されていなくて。しかし、2018年に来日した映画祭ディレクターとファーストコンタクトを取り、その後、2020年に海外セールスを担当した『スパイの妻』が銀獅子賞を獲ったことで潮目が変わって。そんな中、日活として、修復していた『殺しの烙印』『神々の深き欲望』の2作品が選出されたのです。

Q.今回の挑戦では、それぞれどのような役割分担で進められたのですか?

加藤

作品の修復が終わった時点から映画祭へのアプローチ、現地でのプロモーションなどの戦略を立て、最終的に営業にどう結びつけていくかという海外展開の全体像を考え、実行するのが私の役割でした。

山本

私は加藤さんと連携しながら、海外映画祭への営業と海外宣伝・広報を担当しました。具体的には、修復された作品の素材の管理を行うとともに、ヴェネツィア国際映画祭への選出後はSNSや得意先へのアナウンスなどを通じて情報を広げていく業務を行いました。また、それらに伴う、作品紹介のためのPRシートを日本語・英語の両方で作成しました。

小森

私は配給会社や配信サービスなどへの営業を担当。選出が決まった時点から各国のお客様に売り込んでいくのがそのミッションです。受賞に至るまでは改めてお客様に作品を認知していただきつつ、受賞後、本格的に動き始めました。

ヴェネツィア出発直前まで
こだわったのは、
徹底した事前準備。

Q.『殺しの烙印』の受賞に向けた取り組みでは、どのようなことにこだわりましたか?

加藤

事前の準備です。まず過去の受賞作品の傾向をつかめば、対策もできるのではないかと考え、山本さんに調べてもらいました。

山本

賞そのものはいつ始まって、その時の映画祭のトップは誰で、どういう人たちが審査員で、どういう作品が過去に選ばれているか……、過去7年分の資料を調べました。

加藤

調べてみると、受賞作品の7作品中5作品がイタリア映画で、残りの2作品もソビエトとチェコスロバキアの作品でした。

山本

「あれ?日本どころかアジアの作品は受賞してないな」と落胆しました。

加藤

どう考えても受賞のチャンスは少ない(苦笑)。だけど賞を選ぶのは、映画を学ぶ現地の学生審査員だとわかって。ならば映画の修復の技術だけでなく、作品自体の素晴らしさも加点されて評価されているのが実態なのではと考えました。そこから鑑賞体験が深まるようなアイテムを揃えようということになり、作品のポスターやTシャツを持って行くことにしました。他にも印象付ける仕掛けはないかと考えていた時、ふと、あるお客様が映画祭でリーフレットを入場者全員に配っていたのを思い出して、これだなと。読み物があれば作品理解も深くなってより特別な体験になる。思い立ったのがヴェネツィアへの出発3日前の話です。

Q.作品紹介と修復のプロセスを掲載したリーフレットだったそうですね。

加藤

修復を担当いただいたIMAGICAエンタテインメントメディアサービスさんに相談したら、修復のプロセスを丁寧に記録したレポートを用意してくださいました。それを2000枚の紙に印刷して、出発の2日前に小森さんと山本さんに折り込む作業を手伝ってもらって。3人がかりで結局5時間かかったかな。

山本

すごく大変でした(苦笑)。でも、リーフレットを配布するという加藤さんのひらめきに「そういうアプローチがあるのか!」とハッとしましたし、しかも出発前のわずかな時間ですから、私ならあきらめてしまうなとも思いました。巻き込み力がすごいです。私も加藤さんみたいに、発想力と実行力のある人になりたいなと思いながら作業をしていました。

小森

「このアイデア、いけるんじゃないの?」という高揚感と、作業がきついなという気持ちと半々(笑)。でも、私の仕事が本格化するのは受賞後からで、二人が担当する映画祭の業務に触れる機会はそれ程多くなかったので、この時うまい具合に関わることができてうれしかったです。

ヴェネツィアと日本、他部署との連携、
多くの関係者が一丸となってつかんだ最高の賞。

Q.現地でのエピソードを教えてください。

加藤

ヴェネツィアに到着後、まず映画祭のディレクターとミーティングを行った際、Tシャツとポスターを渡したら、「わー、嬉しい!!!!」と。ディレクターが鈴木清順監督のファンであることを知っていたので、喜んでくれるかなと思ってはいましたが、本当に童心に帰ったかのように喜んでもらえて。またワールドプレミアでは、お客様が上映前からリーフレットを食い入るように読んでくれていて、狙いが当たった感じがして、それも嬉しかったですね。

山本

加藤さんがリアルタイムで送ってくれた会場の写真を見ると、お客様の手元のリーフレットが写っていて、「それ折ったの私です!!!」と感激しました(笑)。

加藤

三大映画祭とはいえ、クラシック部門で満席になることはないと聞いていたのですが、『殺しの烙印』は満席でお客様の熱気もすごい。コメディーシーンでは声を出して笑っていて。鈴木清順監督が海外で人気があることはわかっていましたが、それを肌で実感しました。もしかしたら受賞もあるかもと思いましたね。ワールドプレミア後も、『殺しの烙印』のTシャツを着てヴェネツィアの街を歩いたり、それが受賞につながるかはわからないけど、とにかく出来ることをやりました。

山本

一方、私は映画祭のプログラムが解禁した段階から、毎日、SNSで映画祭に関しての投稿をしていて。加藤さんがヴェネツィアに行ってからは現地情報や写真をどんどん送ってもらって、その熱気そのままを伝えられたらいいなと思いながら投稿を続けていました。

Q.受賞が決まった時の感想を教えてください。

加藤

仕事をしていて、これまでに経験したことがないような感情が湧き上がって。喜びと興奮と驚きと、いろんな感情が一度に押し寄せて、全身の血が一気に沸騰するような感覚でした。遅れて気付いたのですが、学生時代にスポーツをやっていたときに感じていた「アツい」という感覚にとてもよく似ていたんですね。そんな体験を仕事でも出来て、なんだか感無量でした。

山本

私にとっては今までで一番、チームで何かを成し遂げるということを実感できた瞬間でした。それも私たち3人や国際事業チームだけでなく、配給宣伝部など他部署で動いていた方々も含めて連携できたからこそすごいことができた。そこに自分が関わることができたことに大きな手応えを感じました。

小森

私は授賞式の生配信を見ていて、お酒を飲みながら喜びに浸りました。で、会場で映画界の錚々たるメンバーがいる中に加藤さんが写っているのを見たら涙腺がぐずぐずに。加藤さんが日本に凱旋すると、「トロフィーを見たい」という従業員がわらわらと集まってきたのが印象的でしたね(笑)。

加藤

みんなトロフィーにはご利益があるって言って(笑)。

小森

その通りで、受賞後は各国のお客様から引き合いがあって。通常は売る側と買う側で利害調整が必要な部分もあるんですが、今回は、日本の旧作に詳しいお客様が受賞をすごく喜んでくれたり、すでにライセンス中のお客様でも修復された新しい素材を求められたり……。損得を超えてお互いの興奮をシェアできるというのは特別なことなのではないかなと思います。

加藤

受賞の波及効果の大きさには驚きますね。

小森

受賞のニュースが鮮度を保っているうちに、どれだけ早いタイミングで提供し、海外の各国で配給していただけるかが今後の勝負になります。

今回の挑戦を糧に、
日活の海外戦略をさらに加速したい。

Q.今回の経験を糧に、今後どんなことを実現したいですか?

加藤

この良い波に乗ったままいきたい。2023年の鈴木清順監督生誕100年にちなんで、海外に向けて思い描いている施策があるので、それを推し進めたいと思っています。自分としての目標は、今回のチャレンジの一連の流れを日活の中に定着させて、一度の奇跡で終わらせず、再現性を持たせていくことですね。

小森

会社としてこれだけ評価される古い作品を持っているのはすごいこと。こうした古い作品から今の新作に至るまで映画の歴史は途切れることなく続いているということを私たち若手が意識して、古い作品、新しい作品を絡めたプロジェクトをどんどん立ち上げていく環境にしたいなと思っています。

山本

同感です。あと自分ごとでいうと、鈴木清順監督作品はもちろん、他のクラシック作品を再発見していくために、古い作品群の知識や歴史を学びたいなと考えています。若手の中でクラシック作品に詳しい人、と言われたときに自分の名前を出してもらえるように頑張ります。

Q.最後に改めて、国際事業チームの仕事の魅力を教えてください。

加藤

作品を通じて、世界中の人たちと盛り上がれたり、相手の国や文化を知られることです。海外の方と交流するとき、共通の話題で盛り上がると、関係性が一気に深まって、自分の人生も豊かになるという感覚があって。そういうことを日常的に出来る、素晴らしい仕事だなと思います。

小森

一言で言うと、井の中の蛙が大海を知ることのできる場所。昔から映画が好きで、自分の中である程度、映画の評価軸が固まっていましたが、この仕事を始めてみると、いやいやそんなことはないなと(苦笑)。世界から見ると日本の映画はこうなんだとかわかって、自分が持っていた映画の価値観はちっぽけなものだったのだと気づきます。改めて映画ってすごいなと思いますね。

山本

本当にそう思います。あと、映画作品のセールスはもちろん、修復、映画祭、広報業務まで幅広い業務を経験できるのが魅力です。「国際事業チームっていろんな業務ができるのが魅力的だね」と同期から言われます。今後、別の部署に行くことになっても、映画ビジネスのすべてのベースになる経験ができていると思います。

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